第16章 さよならの粒度(及川徹)
さよならの粒度
薄青色が褪せかけた無地のカーテン。
閉め切ったままのそれに手をかけた及川の背中を見て、なまえは自身に乗った一番上の毛布を引っ張り顔を隠した。寝起きには、太陽の光は眩しすぎるから。
けれど、ベッドの中で丸くなってじっと待っても、レールの走る音は聞こえてこない。代わりに、
「なまえちゃんの小さい頃の宝物って、何だった?」
と、不思議な問いが投げ掛けられた。
「宝物、ですか?」
突然の質問に釣られてなまえが顔を出した途端、及川が勢い良く両腕を広げた。制菌加工済みのカーテンが開き、窓いっぱいに青が広がり、真っ直ぐ伸びた太陽光線が2人を貫く……と思いきや、今日の天気は酷い曇り空。輪郭の曖昧な鈍い光が、真っ白な部屋の床に忍び入ってくるだけだった。
拍子抜けしているなまえを見て、及川はけらけらと笑った。そして気取った仕草でベッドの横の椅子に腰を下ろすと、膝の上に拳を乗せて、「おはようございます、お寝坊さま」と戯けて挨拶をした。「朝食はアフタヌーンティーでよろしいですか?」
「意地悪なこと言わないでください、徹さん」
なまえは枕に頬を押し付けて、壁の時計を見上げた。既にお昼を過ぎている。「ちょっとうたた寝していただけです。今朝もちゃんと、6時に起きて、8時に朝食を摂りました」
「6時に”起こされた”の間違いでしょ?」
「どうして検温って、毎日決まった時間じゃないといけないのかしら———」
そこまで言ってなまえは身体を起こそうとした。及川が慌てて背中を支える。
「寝てなくて大丈夫?」
「平気です。窓の外が見たいの」
ベッドの縁に座ると、外の景色を見ることができる。普段は気分転換なんてする気も起きないけれど、大切な人となら話は別だ。大通りを行き交う車、立ち並ぶ店に出入りする人々。忙しない活動体を高い窓から見下ろしていると、まるで神にでもなったような感覚になる。
「あの子たち、」
なまえは目に止まった集団の1つを指差した。「何してるんでしょう」
ちょうど真正面に位置する公園で、10人前後の子供達が、両手を合わせ思い思いの方向を向いている。
椅子に座ったまま窓枠に肘を乗せていた及川は、「あれは…… 」と首を伸ばした。「"お祈りごっこ"じゃないかな」