第7章 影は静かに見え隠れ
「え……」
「え? じゃなくて、早くして下さい愚図。いつまで人を待たせる気ですか? 置いていきますよ愚図」
「の、乗ればいいんでしょう!」
やけくそ気味に再び彼におんぶしてもらうと、先程とは違い、黒子はゆったりと歩き始めた。向かう先は、どうやら待ち合わせ場所のようだ。皆怒るかな……。会った皆になんて文句を言われるのか想像しながら、黒子のあまり大きくない、けれどしっかりとした男の背中に顔を埋めてみた。
背中越しに、彼の心臓の音が聞こえる。一定のリズムを刻んでは、脈打つ。
「黒子ってさ……私に黒いよね」
「君が愚図でのろまだからじゃないですか?」
「その扱いほんと酷いよね!? さつきちゃんの時と全然違うんだけど!?」
「桃井さんは……まぁ、ただのマネージャーですから」
「じゃあ……私は?」
「にしめごぼう」
「人でもなかった……」
いつもの彼だ。
もうそれだけで、後のことはどうだったよかった。
「君が僕にとっての何なのかなんて、知る必要もないですよ」
「そっか……」
ぎゅっと、強く抱き着いてみる。どうか、今日も明日も明後日もこのままの二人でいられますように。そんな、つまらないことを願いながら。