第1章 0
サイス「ライト。起きてるか?」
ライト「あぁ。起きてるよ」
誰もいない魔導院のエントランス。
開け放たれた門からは噴水広場というだけに象徴的な噴水が見え、同時に乾いた風がエントランスに吹き付けて流れていく。
風は滞留する事無く、別の口から流れ出て行っている。
そんなエントランスに俺とこの銀髪の女の子、サイスと他数人で堂々と寝っ転がっている。
誰かが来たら変人集団と思われ兼ねない状況だ。
門から見える外は暗く、今が夜である事が分かる。
サイスと俺以外の数人は横たわり眠っている。
そして名前が出てこないのは名前を知らないからだ。
いや、ついさっきまでは知っていた筈だ。
サイス「まぁ、あたし達ももう少ししたらお互いの関係すら忘れるんだろうな」
ライト「だな。次の世界でもまた仲良くしてくれるか?」
サイス「さぁ? 保証はしないよ。そもそも次なんてあると思ってんのか?」
ライト「俺が嘘付いた事あった?」
サイス「先週の休みに約束すっぽかしたのは誰だ」
ライト「その節は申し訳ありませんでした」
何気無い会話。こんな日常的な会話をしたのは何日ぶりだろう。
テラスやリフレッシュルームでする様な会話をしながら横たわるサイスに目を向ける。
手を伸ばせば届きそうな位置にいる彼女の下半身は瓦礫に埋れ、彼女と瓦礫の間からは赤黒い水が流れており、その周りには赤黒い水たまりができている。
それが何を表しているかは容易に想像出来る。
俺も似た様な状況だ。潰されてこそいないが動ける状態じゃない。
瓦礫を退かそうにも片手では無理がある。
せめてもの救いはサイスの居る方の腕が残っていた事。
残っていた腕でサイスの手を握る。
突然の事に乾いた血が付着している顔をこちらに向ける。
何か言いたげに口だけがパクパクと動いていたのでこちらから先制攻撃を仕掛ける。
ライト「最後位デレろよ」
サイス「アンタはあたしに何を求めてんだ」
ライト「サイスのデレを求める」
彼女は鼻で笑うと微笑して言葉を続けた。
サイス「---------------」
次に会う時、この子は俺を覚えていないだろう。
単純に歳の近い同期位にしか思わないだろう。
だから、
今度もまた俺から声を掛けさせてもらうよ。