第1章 東京喰種
「ねぇ、ウタさん」
マスクに向かう視線を遮るように、ウタさんの頭を抱える。ウタさんは怒ることもなく優しく笑う。
「ん?なぁに」
可愛く上目遣いで僕を見るウタさんに、胸のあたりがぎゅーっと締め付けられる感じがする。
「僕、思ったんだ。グールが人間を食べるなら、人間だってグールを食べられるんじゃないかって」
ウタさんの頬をべろりと舐める。ピクリと肩を揺らすウタさんに笑みが浮かぶ。
「ウタさんは、甘くて美味しいね」
「そんなことされると、我慢できなくなっちゃうんだけど」
なんて言いながら、余裕な表情を浮かべるウタさんに、少しムッとする。だから今度は、急所でもある首に力の限り噛み付いた。でも、人間とグールの力の差は歴然で歯の跡さえ付かなかった。
「燈哉君?」
いつもと違う僕に気づいたのか、心配そうに眉を寄せている。
やっぱり人間はグールを食べられないのか、なんて漠然と思いながらウタさんに抱きついた。
「燈哉君、どうしたの?」
背に回された腕に泣きそうになる。
「……あの女の人、誰」
「女の人?」
「最近、此処に良く来てる人」
栗色の柔らかそうな髪、クリクリした大きい目、女性特有の細くてしなやかな体。この店の雰囲気に合わない、可愛い人。
「あぁ、あの人。…嫉妬?」
その言葉に顔が熱くなる。
「真っ赤だ、可愛い。心配しないで、浮気じゃないから。食べようと思って」
「え?あの人グールじゃないの?」
「うん?違うよ」
自分の勘違いだって気づいて、ますます顔が赤くなる。
「うー…、ごめん」
「気にしないで、嬉しかったし。でも、燈哉君が
浮気したら燈哉君のこと食べちゃうかも」
悪戯っ子のように笑うウタさんにドキッとする。
「ウタさんなら食べても良いよ。でも、その時は、僕もウタさんを食べたいな」