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日記
ドラコとマートルの話し


 第二次ヴォルデモート戦争終結から約1年。ハーマイオニーとドラコはホグワーツに残る事を選択し、ようやく今日、卒業式を迎えた。
 ……と、言ってもドラコは学生と言う身分を最大限利用し、魔法省からの招集など面倒な事柄には「僕はまだ学生の為、学業を優先させて頂きます」などとのたまい、学徒としての身分を巨大な隠れ蓑として利用していた。

 なので素直に学校に来るときはテストを受けに来る時くらいで、それ以外はずっとマルフォイ家の当主として、未だ根強く続く純血主義一族にかかわる諸々の戦後処理に追われていた。
 だが、それも今日までだ。ホグワーツの学生としていられる最後の日に、ドラコは『嘆きのマートル』のトイレを訪れた。


「あ~ら、マルフォイじゃない。どうしたの、こんなところに?もしかして私に会いに来てくれたの?」

 マートルはいつもと同じように、パイプのU字管に腰かけて顔のニキビをつぶしていたが、久々にドラコが来てよほど嬉しかったのだろう。ズームアップするようにグイ―ッとドラコの目の前まで飛んできた。

「それで、私になんの用?」
「今日でホグワーツを卒業するから、その前に渡すものがあって来たんだ」
「渡すもの?」
「ああ、そうだ。腕が落ちてなきゃ良いが……」

 そう言うとドラコは持っていたヴァイオリンケースを開けた。そしてヴァイオリンを左肩甲骨の少し下の部分と、左顎の間に軽く挟むようにかまえると、音を確認するためにゆっくり優しく絃を引いた。
 その音から、ヴァイオリンの品質はもちろん、腕前の良さも感じ取ることが出来た。

 幼き頃から教養として勉学はもちろん、ピアノやヴァイオリンなども徹底的に習わさせられていたので、腕前はあのルシウスさえも認めるほどだ。
 ……ついでに言えば、本人的にはピアノの方が得意なのだが、まさかトイレにグランドピアノを運ぶわけにもいかず、仕方なく運びやすいヴァイオリンにしたのだった。

 マートルが真剣にジッと見つめる中、ドラコは息を整えると目を閉じ、曲を引き始めた。

 ――その音色は、青い湖の底を連想させるように静かで、それでいて透き通る様な透明感があり、優しく繊細で、あふれ出る涙を誘うような綺麗な旋律だった。
 さらに後半は気高く美しく、それでいて少し孤独さの感じられる素晴らしい曲だった。

 やがて曲が終わり、マートルは余韻を最後の最後のまで味わうと、パチパチと大きく拍手をした。

「凄いわ!とっても綺麗な曲だったわ!!ねえ、なんて曲名なの?」
「我が……マー……ルへ、だ」
「え?」
「わ、我が友マートルへ、だ!!」

 当然だが、ゴーストは肉体を持たない。だったらせめて心を込めた作曲を……と考えたのだが、実際にやってみたら自分が思っていた以上に恥ずかしかった。
 ドラコは真っ赤になった顔を見られないように、そそくさとその場を立ち去ろうとした。

 そんなドラコに対し、マートルは感極まって思いっきりハグをした。
 ドラコからすると、全身が氷漬けにされた様な寒さだったが、ここで突き飛ばすわけにもいかず、その凍る様な冷たい背中にブルブルと震える腕を回した。

「私のことを、友達だと言ってくれるの?」
「あぁ……僕の方こそ、あの時は世話になった」
「私、生きている時も死んでからも、今が一番幸せよ」
「そうか……」

 それなら時間のない中、わざわざ作曲した甲斐があった。静かにそう思うと、するっとマートルがドラコの体から離れた。

「もうお別れね」
「そうだな……」
「さようなら、私の唯一のお友達」

 そう言うと、マートルは一番近くのトイレに勢いよくダイブした。そしてパイプの中から「ありがとう、ありがとう、ありがとう」と、マートルの言葉が幾重にも反響して聞こえてきた。

 ――これで終わった。これで僕もマルフォイ家の当主として、1人で歩んでいくことが出来る。

 現実的にはまだまだ課題は山積みだが、学生として最後にして最大の借りを返し終えることができた。
 ドラコはヴァイオリンケースを手にし、長年愛用していたローブを翻すと、様々な想いがあふれるホグワーツ城を後にしたのだった。

[関連ジャンル] 二次元  [作成日] 2024-07-13 22:18:04

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