作者プロフィール
日記
犬ある小話 ※快斗君出ません 時系列は最初の方



それは、よくある情報誌に、載っていた文章。

『ピンチの状態で助けられたら女は落ちる』

んなドラマや漫画みてぇな話そーそーねぇだろって思って、その時はけっ、と立ち読みしていた雑誌を投げ捨てた。今になって、そんな文章を思い出したのは、他ならない。

初めて落としたいと思った女が、ものすごいドジだったからだ。

気になったきっかけは今から一年以上も前の、入学式。
部活をやってた俺は、入学式後の部員募集の為に学校へと向かっていた。

ふぁーあ、とあくびを一つ。
昨日は野郎四人で徹マンしてたから、朝の光が目にしみる。
昨日は負けっぱなしで心も体も丸裸だ。
まぁ学生の賭け事なんて可愛いもんで、一週間分の昼食代、だけども。

学生だからこそ、手痛い出費だ。
あそこでチーワンさえくりゃ、九連宝燈で一発逆転だったってのに!
あーくそっ、昨日の惨劇を思い出してだらだらと足を進めていると、後ろから風を感じた。

「溝にはまって入学式遅れるなんて、ありえな、いっ!」

少し高めの声に、小さな体。右足が濡れているのは、どういうことか。
独り言だろう、聞こえた声と、その真新しい水色の制服から察するに、新入生だろう。
スカートが、走るたびに軽く上に捲くれ、太ももがちらちらと見える姿がこう、男子高校生としては素直に、ご馳走様です。と思い。どんどんと自分から遠ざかって行くのを、見つめていたわけで。

「ぎゃっ!」

ずべっ!という音が聞こえるんじゃねぇかってくらいの潔いコケっぷりを見て、俺は苦笑して脚を早めた。

「大丈夫か?」
「…っ、はい」

あーもう、完全遅刻だ。そうぼやいた女の子は、すみません、と俺が差し出した手をとった。
持ち上げようと力を入れたが、思いのほか軽くて驚く。
なんかちっこい感じだなこの子。マスコットみたいにぎゅっとしたくなる感じってーの?
思い、じっと見つめると、視線に気付いたのか、顔を上げて。

「ありがとう、ございましたっ。」

そん時の笑顔が、半端ねぇくらいの衝撃だったんだよ、な。

その後、じゃ、私急ぐんでっ!と走り去って行った彼女は、案の定うちのガッコの新入生で。


ばったり会った時に再び礼を言われ、そっから廊下で偶然会ったときには軽く話すくらいの仲だ。

接点もそうネェし、こっちから仕掛けるっても、生まれてこの方野郎とばっかりつるんできた俺にはどうもこうも動き出せず。
これといって何もないまま一年が過ぎ。

ふと、以前見た雑誌の文章を思い出し、今に至る。

今、俺の手には。
バナナの皮が一つ。

そう。相手はドジっ子。漫画みてぇな出会いなんて、こっちから作っちまえ。

調べに寄れば、浅黄は帰宅はこっちの道を通る筈で。道の真ん中にバナナの皮を置いときゃ、見事にずっこけれるのなんざ、浅黄ぐらいのもんだろう。
そこを偶然居合わせた俺があいつがコケる寸前に助ける・・・完璧だ。

はっはっはっ。勝ち誇ったように笑う俺を、行きかう人は怪しい顔して見ていたが気にしねぇ。
無事バナナの皮を設置し終え、時が来るのをそこでうろうろしながら待つ。

「馨ちゃん馨ちゃん、昨日のキッドの生放送、見た?」
「あー。あの泥棒?昨日のK1あいつの所為で中継なくなったんだよね」
「ちょ、馨ちゃん空き缶手で握りつぶすのやめてぇ!怖いから!」
「あ?んで、そのコソドロがなんだって?」
「いや、かっこよか…ナンデモナイデス」
狙い通り、浅黄と、その友達が来た。

今日は二人で帰ってんのか。ちょっと計画と違うが、仕方ねえ。
きっと、誰と歩いていようがあのバナナの皮に引っかかる筈だ。

「――うゎっ」

来たっ!!

俺は必死に走り出した。口元が緩むのは仕方がない。

今助けるぜ…!

今にも尻餅を着きそうな浅黄に手を伸ばしたその瞬間

――足に何か違和感を感じた。

どったーん!!

「っぶな」
「…あ、ありがと」

寸での所で、がし、と腰を掴まれた浅黄は尻餅を着かずにすんだようだ。
あの明るい声は、きっと、ふわりとあの微笑を見せているに違いない。

なぜ予想形なのかというと。

先ほどの擬音語を華々しく鳴らしたのは、自分だからとしか言いようがない。
助けようと手を伸ばしたその瞬間、足に違和感を感じ、走っていた俺はそのまま勢い良く、アスファルトとご対面したのだ。

つまるところ、浅黄を助けたのは、あのえらいべっぴんに他ならず。

こんなはずじゃ、と二人を見やると、頬を赤くして礼を言っている浅黄と、杏はあぶなっかしいんだから、と笑うべっぴんの姿があった。

おかしい。こんなはずでは。思った先に、べっぴんと目が合い。


――はッ。


蔑む様な瞳で、鼻で笑われ。

それが、あいつを諦めようと決めた瞬間でした…。







[関連ジャンル] 二次元  [作成日] 2018-02-20 13:16:51

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