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夏だ!花火だ!夏祭りだ!(鬼灯の冷徹:加々知夢)

第1章 鬼灯の冷徹 / アイスクリーム


「私、高校生のころ、ドーナツ屋でバイトしてたんです。台風で学校が休みになって、喜ぶのも束の間、すぐにバイトに駆り出されたんです! お客さんはお茶しに来たり、お持ち帰りのドーナツを箱買いしたり…………常に長蛇の列でビックリしました! 本当に勘弁して欲しかったですよ。まあ、売り上げが良かったんで、ちょこっとボーナスが貰えたんですけどね」

最後はお金の話題をごまかす為か、球代は照れくさそうにチロッと舌を覗かせた。その幼さを残す純粋な様子に、加々知も口角を上げる。彼女の舌先が、うっすらとアイスの紫色になっていたのは内緒だ。

地元で暮らすからこそ分かる地域事情。まるで地域密着型の取材をしているようで、楽しい感覚があるのは否めない。どうやら今回の台風は本当に特殊らしい。さすがに気象庁から「特別警報」が出されてしまえば、いくら台風慣れしているとは言え、大人しくする人間が大半のようだ。

それを聞いて、やはり根性無しの人間に対して少しつまらなくも感じる。けれども、一口ずつ口内に広がる甘さは、加々知の台風に対する考えを改めた。

「まあ、私はこの台風に感謝していますよ。お陰でこんなに美味しいものを、貴方と一緒に頂けましたから。確かこの紅芋アイスは、球代さんの手作りなんですよね?」

「もう、加々知さんってばお上手なんですから。でも、こだわりの一品なのは確かですよ!」

聞けば近所のおじぃ、おばぁから貰う紅芋とヤギミルクで作ったものらしい。砂糖も地元で取れるサトウキビ。精製の控えた砂糖を使用しているため、独特の風味と『コク』がアイスにオリジナリティを加えていた。

素材そのものから気を使っている味は、天下一品だ。市販で買う紅芋アイスより、何倍もしっかりとした芋の味を楽しめる。普通に飲むと臭みの強いヤギミルクも、アイスになれば濃厚な口当たりを生み出していた。

自家栽培したと言うハーブも飾られる事によって、見た目も上品だ。

あえて欠点を指すのなら、固めに仕上がっていてスプーンで掬うのに少し手こずる事だろうか。けれど、それすら素人らしさが出ていて、より手作り感を演出している。努力を惜しまずに作られているだけあって、加々知はその欠点すら気に入っていた。
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