第1章 鬼灯の冷徹 / アイスクリーム
盛り上がりに欠ける展開のおかげで、加々知はカフェで時間を潰すしかなかった。「せめてお菓子でも買い込めば良かった」と、甘味を全て食べてしまった昨日の自分に対する後悔が浮かぶ。いっその事、部屋に戻って不貞寝でもしてしまおうか。そう思うや否や、食器がテーブルに置かれる音で我に返る。
「加々知さん、コレどうぞ」
ペンションの管理人である球代から差し出されたのは、白い器に鎮座するアイスクリーム。もちろんスプーン付きである。
一つ大きなアイスが堂々と中心を陣取り、それを囲むように小振りなアイスが三つほど添えられていた。丁寧にスクープされたアイスクリームは、見事なボール状をしている。上品で淡い紫色のしたソレは、沖縄ならではの紅芋アイスである事が一瞬で分かった。皿の隅にちょこんと置かれたミントも、彩りを良くする上に香りを引き立てている。素晴らしい一品だ。
朝食と夕食を提供しているペンションで、これはデザートとして注文が出来るのを加々知は知っている。何故ならばカフェのメニューにも載っているし、加々知自身が二日連続で注文した事があるからだ。ただ、これほど多く盛られたアイスは見た事がない。明らかにサービス以上の盛り付けで、少なからず「何か裏があるのでは無いか」と勘ぐってしまった。
「私がおやつを食べたくなっただけで、ついでに用意したものなんです。料金は結構ですよ」
「そんな、いけません。普段より多めに入れてくださってるじゃないですか。せめてメニューに載ってる料金は支払わせてください」
「良いんです! 他にお客さんがいる訳じゃありませんし、私が押し付けてるようなもんですし…………加々知さんに食べてもらいたくて、用意したんです!」
頑にお金を拒否している態度からして、裏は全く無いようだ。むしろ純粋な感情を剥き出しにして、加々知の反論を拒む。仕事柄、人を疑うのは得意分野なのだが、今回ばかりは無用な心配だったと察する。