第7章 Secret Circus
それから私達は各々に屋敷内の掃除やソーマ様のお守り…と坊っちゃんが目覚めるまでの間を過ごすことにした。
セバスチャンが灰掻きをアグニさんがソーマ様とチェスを。それなら私は部屋の掃除でもしようとバケツと雑巾を手にした。
各部屋の窓を拭いていると廊下の方で電話のコール音が響いていた。
「はい」
『私です』
「タナカさん。何でしょうか?」
私は電話の横に置いてある紙にタナカさんからの用件をメモしていく。
「はい、…はい。かしこまりました。お伝えしておきます」
受話器を置いたところでセバスチャンが近付いてきた。
「どなたからでした?」
「タナカさんからでした。それで…」
セバスチャンにメモした内容を伝えた。
「…それは坊っちゃんが目を覚ましたらお伝えしましょう」
そして私達はまたそれぞれの持ち場に戻った。
「今何時だ?!」
暗い部屋に響いたのは坊っちゃんが飛び起きた音と声が響いた。
「午後7時14分でございます。ようやくお目覚めになりましたね」
私は部屋の蝋燭に灯をともした。
「何故起こさなかった?」
「執事として主人の体を第一に考えるべきという判断からです」
坊っちゃんはセバスチャンが何を言っているのかわからないというような顔をした。
そしてあらかじめ作っておいた料理を並べた。
「本日のディナーは3種のきのこのミルクリゾットと豚肉とワインのポトフ。デザートは温めたリンゴのコンポートのヨーグルトがけでございます。では坊っちゃん、はいあーーーん」
あろうことかセバスチャンはスプーンでリゾットを掬い坊っちゃんの口元へと運んだ。
その光景はなんというか…見てはいけないものを見てしまった、という気分になった。
「なんの真似だ!それは!?」
「あ。熱いですか?では私が冷まして差し上げます」
「今すぐやめろ!命令だ!!」
坊っちゃんは全身に鳥肌ができてしまっていた。
「病人はめいっぱい甘やかして優しくしてなるものだとソーマ様が。お気に召しませんか?」
セバスチャンは坊っちゃんの答えがわかっているとでもいうように微笑みを口元に称えていた。
「そんな“子供騙し”はいらん。虫唾が走る」
「さようでございますか。そるは失礼いたしました」
私は坊っちゃんの言葉に坊っちゃんの“覚悟”を改めて感じた。
坊っちゃんはソーマ様の言うような優しさを必要とはしない。