第7章 Secret Circus
談話室を後にすると自室に駆け込んだ。
扉に体を預けズルズルと座り込む。
胸の真ん中がドキドキと波打っている。
もし、あの二人に否定されていたら…考えるだけでも背筋に悪寒がかけ上がる。
…いくらこの血が呪われていたとしても、こんな感情があるなんて…私は、本当に人間なんだな…。自嘲気味に笑うしかなかった。
だが、まさかアグニさんが気付いていなかったとは…。
せめてセバスチャンが話していると思っていた。いや、…それが私の怠慢なのだろう。
しかし、アグニさんが気付いていなかったということは、執事としてそれだけのことをやっていたということになる。でも同時にそれは女としてどうなんだろうか。
確かに女であることが煩わしいと思うことがある。あるが、何とも言えない曖昧なものが心を重くした。
(姫サマ、そんなとこにいないでさっさと寝とけよ?)
頭に響いて聞こえた声はリオンのものだ。
「…あのとき、アグニさんが近くにいたのを気付いていたでしょう?」
そう気付いていたはずだ。絶対に。
私達と違って彼等悪魔は、耳も目も人間の比ではないくらいに良い。
それが気付かないわけがない。
(あ、やっぱり気付いてたか)
「はぁ…貴方というものは…」
どうせ、面白そうとかそういうくだらない理由で言わなかったのだろうけど、こちらからすれば非常に迷惑です。
(ま、そんなことは水に流してさっさとベッドに入んな)
するとフワッと見えない何かに抱き抱えられたように体が浮いた。
この場合、何か、というのはリオンだろうけど。いきなりは止めて欲しい。心臓に悪い。
でも、今日だけはこの悪魔に従おう。
坊っちゃんの側にいないというだけでこんなにも不安で、疲れるものとは知らなかった。
明日、また、頑張らなくては…。