第1章 01:0と1の交差地点
きっと、君とわたしは一つだった。
「なぎさん」
気付けば側にいて、当たり前のように名前を呼び合った。
「おはようございます」
毎日、真っ先に挨拶を交わした。
昨日の出来事や朝練の話をして笑い合った。
「大丈夫ですか?」
体調が優れないときはすぐに気付いてくれた。
「すみ、ません……っ」
具合が悪いときは頼ってくれた。
「……ありがとう」
ときどき敬語が消えるとき。
カッコ良くて、ドキドキした。
大好きだった。
「バスケ部を……辞めようと思うんです」
え、と。
耳を疑うと同時に、すごく嫌な予感がした。
彼の笑顔が、夕陽に掠れて。
彼の姿が、影に消えた。
「貴女だから、我が儘を言います……」
気配すら、なくて。
「大好きでした。……僕と、別れてください……」
最後に聞こえた声は、少し、震えていた。
「はい」
わたしは、声を絞り出した。
彼は学校中から消えてしまった。
出席簿にはいるのに、いなくなった。
青峰くんはじめ、何人かがわたしの所に来て彼の所在を尋ねたけれど、もう、メールの一通も無かった。
彼は、彼らから離れるためにわたしに我が儘を言った。
勝手と分かった上で、わたしに甘えた。
これは、わたしが彼を助ける最後の手段。
彼を彼らから守る、わたしだけの救済法。
「苦しいんだよね……」
わたしのこと。
彼らのこと。
バスケをすること。
誰かと過ごすこと。
きっと、君は大好きだった。
それを、失って、避けて、嫌になって、怖くなって。
「今も、辛いんだよね……?」
そうなる前に救えなかった。
こうなる前に気づけなかった。
君は本当に痛いことだけは隠してしまう人。
そうと知っていたのに、何も出来なかった。
これは、わたしの罪滅ぼし。
「君の願いを、叶えてあげる」
きっと、君とわたしは一つだった。
「さようなら……大好き、だった人」
今はもう、0だ。