第56章 範司と火口
「そっか。」
範司はそれだけ言うと、
眠っている凛に目を向け、
「……凛は子どもの頃から、
自分の意見はさておき、
相手の意見に合わせる傾向があったからね。」
と、優しく凛の髪を撫でる。
凛は私に対しては、
いつも言いたいことを
言ってくれていたようだけど、
実際家や学校では、手駒になることを
自ら買って出るような子だった。
本音を明かすのが苦手、というより、
自分が本音を言ったところで
どうにもならない、と
端から諦めているようにも見えた。
「だけど、凛は君たち二人と
出会ってから、明らかに変わった。
君たちになら、凛は本心も過去も
曝け出すことが出来るし、
自分で決断することだって出来る。
これをきっかけにして、他の人間に対しても
少しずつ自分を出せるようになる気がするんだ。」