第36章 溢れるほどの想いがこぼれてしまう前に
突然抱きしめたいと言い出した
エルヴィンの胸に抱かれて、
どれくらい時間が流れただろう。
“ありがとう”と言ったきり、
黙りこんでしまったエルヴィンは、
今何を思って自分を抱きしめているのだろう。
人が多く行き来するような場所で
抱きしめられるなんて
今までの自分なら、絶対拒否していたと思う。
それでもエルヴィンの提案を
受けてしまったのは、
真剣でも、どこか寂しそうな
エルヴィンの目を見たからだった。
稀に見せる、何とも表現し難い
エルヴィンの切ない表情は、
自分の心を強く揺さぶる。
そっと背中を摩るたび、
抱きしめられる力が強まるようで
何も言葉を発することのないまま、
エルヴィンの背中を摩り続けた。