第36章 溢れるほどの想いがこぼれてしまう前に
目まぐるしく表情が変化する凛の手を
そっと握った。
喜怒哀楽がハッキリしていて、
素直で嘘が吐けない。
その割に臆病で、自分に自信がなく、心配性で、
女性の武器も使い熟せない彼女にとって
この世界は相当生きにくいのだろう。
……いや、俺たちの世界でも、きっと同じだ。
そんな不器用な彼女を、側で支えたい。
彼女の背中を押す役割は、自分が担いたい。
そんなことは不可能だと分かっていても、
そう思わずにはいられないほど、
彼女が愛おしい。
「凛。やはり無理だ。
抱きしめさせてくれ。」
少し屈んで控えめに手を広げて見せると
周囲の様子をしきりに確認しながら、
彼女がそっと胸に収まった。