第12章 迷子の迷子の…!
「片倉…!」
「男装しているつもりだろうが、俺にはわかるぜ、椿」
「ちっ…」
あの可愛らしい声はどうしたものか、椿の口から出るのは男のような低い声。平成でいう茶ライ方が喧嘩をなさるときに飛ばすあの声。
がバレていたのか否か、それはまだわからないが小十郎が#nmae1#の腕をがっしりと掴んでいるので逃げたくても逃げれない。
「…、だな」
「は…?」
「てめぇの名だ、間違いとは言わせねぇ」
だったら聞くなよ、と心の中で突っ込んだがそれを言葉に出すことができなかった。
というより、政宗様がお待ちだとはどういうことだろう。
「…さんを連れていかせない」
「政宗様の命だ。俺は意地でも此奴を連れて城に戻る」
何で連れていかれるのかがわからなかったは非常に混乱していた。
何処を見ていればいいのかもわからないし、未だに掴まれているこの手を振り切るべきなのか、このまま連れていかれるべきなのか、椿の答えを待つべきなのか全く理解できていないし置いてけぼりだ。
だからと言って声を出せない。この2人の殺気に声が詰まっていたのだ。
「私はさんを守らなければならない」
「それは武田信玄からの命ではないだろう」
「意志、それが私を動かしているんだ!」
椿が強くいったかと思えば、キンッと耳に劈く金属音が聞こえた。
いつの間にかは小十郎の腕の中に納まっており、呆然と目の前の光景を見ていた。
椿が苦無を両手に持ち、小十郎からの一撃をどうにか受け止めていたのだ。
これほどにまで肌に殺気を感じたことはなかった。まるで呼吸することさえ制限されているような空間。声帯が拒否をしている。
「…さんっ!!」
椿の声が聞こえた瞬間、なにも耳に届かなくなった。