第5章 ごたいめーん…
「殿、こちらに我らが主、武田信玄様がいらっしゃいます」
くれぐれも無礼がございませんように、と小山田に言われたのはいいが、残念ながらこういったことに関する礼儀作法なんかは皆無である。
トリップする前に学んでくればよかったのだが後回しにしすぎて忘れていた。時代劇などを思い出し、あやふやながらも受け流していけばいいかと思った。
「お館様、小山田でございます」
「うむ、入れ」
「はっ」
小山田がふすまを開けてくれて、そのあとに続いてもそろりそろりと入る。
せめてもの礼儀ということで畳と畳の繋ぎ合わせの部分は踏まなかったし、できるだけ情けなく見せないように凛々しくしていたつもりだ。
「そなたが客人か」
「お初にお目にかかります、と申します」
はなけなしの知識を振り絞って自己紹介をし、頭を畳に付くくらい深々と頭を下げた。確か時代劇なんかでは頭を上げよというまでは上げないほうがよかった気がするといろいろ考えていると、信玄は笑いを含んだ声でよい、と一言だけ言った。
改めてみてみるとずっしりとしたその体、ただ重いというわけではないというのがわかった。体型の割にはバサラゲーム内では飛び跳ねてたし、なんて人だと思っていたが、妙に納得したような気がした。
確かにこの人は一生生きていそうな気がすると。
「、と申したな。見たところ村人などではなさそうじゃが」
「はい、…ええと、私はここより少し遠くのほうの出で、」
「一国の姫だと、そうではないか?」
「まっまさか!」
慌てて否定したが、それが無礼だとは思われなかったらしい。
というかこんなにお転婆な姫がいてたまるかと自虐してしまった。
「そうか、ではその美しき着物をなんとする」
「これは、命の恩人由良さんという方に譲っていただいたものです」
は山小屋であったことを素直に話すことにした。
たとえそれを話して追い出されてもいいと、少しだけ思ったのだ。