第3章 これしかありませんよねわかります。
その冷たいナニカは夢小説を読んでいればわかる。武田軍との絡みがある際殆どと言っていいほど出くわす『猿飛佐助からの警戒心』。首にあてられていのは恐らく苦無、それと鋭い冷気がこもった視線だ。
「っつーか誰?この辺にくのいちはいない筈なんだけど」
敵の忍にのうのうと捕まっているようじゃくのいちなんて勤まらないだろと頭では冷静に突っ込んでいるのにまったく口が動かない。これが本物の殺気というものなのだろう。
人は本当の恐怖に襲われた時、妙に思考回路は正常に働き、なのに体は強張っていうことを聞かなくなるらしいと誰かに聞かされた時があったが、まさかココで体験するとは思わなかった。その思い通りに動いてくれない自分の体への恐怖も積み重なってしまうのだろう。
「何?喋れないわけじゃないでしょ?」
喋れるかこのクソ猿とイライラしながら冷や汗を流す。
いい加減離してくれないかと思考を巡らせてはみるものの、やはり多少の混乱状態にあるのかまともに抜け出す方法を思いつけない。
異世界に来て不安な事ばかりだ、ふとそう考えてみれば頭が真っ白になった。
「…っげほッ、あ、ッ…う、」
突然胃の奥底から何かが這い上がってくるような感覚に襲われた。胃液が上っているのだ。
しっかりと気が付いたわけではなかったのだが佐助からするこの異様なにおいは血が乾いた鼻を突きさす悪臭。
そうだ、この男は先ほどまでそのの体に触れているその手で人を殺していたのだ。今までに体験したことのないこの血生臭さ、そしてまた改めて異質であることを感じさせた。