第21章 目に見えた希望が
「ったくよォ、そんな怯えんなって」
軽くそう言ってくる男…長曾我部元親はの肩をポンポンと叩いた。
それは前見た恐ろしい鬼ではなく、頼もしい兄の顔だった。
「にしても気味悪ィ、よくこんな所にいられるな」
元親はあたりを見回して近くの柱をトントンと拳でたたく。
「抜け出してェだろ」
「…」
は驚きのあまり声が出ず、静かに首を縦に振った。
確かに、ここから出られるのならばさっさと出て行きたい。そして幸村に申し訳なかったと頭を下げて詫びをしたい。政宗に余計な心配をかけたと謝らなければならない。
だがここを出るには明智軍の目をまたも欺いてでるしかない。それは元親にとって可能な事なのか?だからここまでこれたという事なのだろうか。
いやそもそも、明智が元親と手を組んでいる可能性だってありえる。否定できないその理由は、ここが戦国だから…だ。
「まぁその…俺を信用できねぇのはよくわかる、だがな、アンタを連れ出してちゃんと真田に帰してやる」
「そ、です、か」
震える声がようやく口にできたのはその単語だけだった。
「取りあえず、身の回りの準備だけしときな。俺がこの辺見てやるから」
元親がどうやってここにきたのか、この際どうでもよかった。誰でもいいからここから助けてほしいと願っていたのだから。もうなんでもよかった。
少ない荷物…といっても、来た時に身に着けていたものだけだが、それを風呂敷にまとめて抱え込んだ。とても小さな荷物だが、どれも大切なものだ。
それをみた元親は満足そうにうなずいての頭を撫でてやった。
「安心しな、特別な道だからな」
そう言ってを担ぎ上げて周りに注意を払いながら静かに駆け出して行った。