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オンナナレさせてみせますから

第19章 恐怖でしかない



「私はもう…無理です」

椿のその言葉は、聞き取れるか聞き取れないかくらいの本当に小さくてか細い声だった。が、はしっかりと聞き取り、目を大きく見開いた。

「なに、言ってるの?」

「…どの道この怪我では、何もできません」

見ての通り、と言って見せてくれたのは左足だった。暗くてよく分からなかったが、血が出ているということは分かる。
椿に聞けば、腱を切られてしまったのだという。片足だけは何とか守りきれたものの、動かなくなってしまった左足はもう不便で必要がないのだという。このままでは女中や忍びもできないと目を細めた。

「痛くないの…?」

「痛みには、なれてます…から…」

言葉尻が小さくなり、ちゃんとは聞き取れなかった。
だが、椿の言葉から感じるに、生きる希望を見失っていると感じたのだ。はどうにかしてここから出してやりたかった。たとえ足が使えなかったとしてもが支えてやればいいのだと思っていた。

「…ッ、出ようよ、ねぇ、大丈夫だから…」

「何を言って…私の事は……早く…」

言葉はとぎれとぎれで、もう喋るのが限界という感じだった。疲れているのだろうか。

「まだ、明智さん、来てないから…!」

「逃げようなどと無駄な事は考えない方が良いですよ」

はっと、後ろを振り返れば鎌を片手にしている光秀がいた。
もうその姿から恐ろしい事さえ考えてしまう。

「え、な、何を…」

「罰するのです」

鉄格子を鎌で壊したかと思うと、逃げることも叶わない無防備な椿に向かって振り下ろそうとしていた。
その光景は、もう考えなくてもわかっていたのだ。椿は今、目の前で殺されるのだと。
だがどうしても目が離せなかった。目をつぶることができなかった。もう死を覚悟しているのか振り下ろされようとしている鎌には目を向けず、を見ている。

「…お慕い、して」


目の前で、命が消えた。





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