第17章 迎えに来たのは
「…なんて呼んでたっけ…」
「佐助」
「…敬語だったっけ」
「崩れてたよ」
「そ、そっかぁ…」
随分と長い間話していなかったので何て呼んでいたか、どうやって話していたかなんてすっかり忘れていた。
佐助はあの別れた人全く変わらない顔をしていた。
「最近どーよ?」
「あー…慶次にお世話になってるの」
「前田の風来坊?なんで?」
佐助は表情を変えたつもりはないのだろうが、とても自然に眉間に皺を寄せていた。忍びがこんなに感情を露わにしていいのだろうか。
「奥州にいるときに慶次が来て、それで夏が終わったころ加賀に行ってみたいって言ったの」
そういうとふーん、と言って慶次の馬の近くにより、と同じように首のあたりを優しくなでてやっていた。
馬はまた嬉しそうに嘶いていた。
「で?これから加賀に行くの?」
「そのつもり、なんていうか…ずっととどまってても変に気を使わせそうだし」
「甲斐に戻るつもりはないの?」
「え?」
佐助は少し微笑んでそういった。
馬に餌をやり終わったのも忘れてただぼうっと突っ立ってしまった。