第2章 こんにちは非日常。さよならしたいです
「…いやいやいやいや」
は苦笑いで首を振った。そりゃないでしょと言ったが由良はくすりと笑ってから言葉をつづけた。
「といったわね、あなたはきっと珍しいと判断されたのよ」
「珍しい…?」
「えぇ、聞いていれば独特の訛りじゃないかしら、旅をしていた私でさえ聞いたことがないもの」
そりゃここの人間じゃありませんからねとは笑ってごまかした。
というかここはほんとうにバサラの世界なのだろうかと今更ながらに不信感を抱いた。
の読んできた夢小説の話なら一番最初に対面するのは殆ど有名武士だったし、野武士に絡まれても自分自身で何とかするか誰かが助けてくれていたものだ。なのに今まで誰にも会っていない。おかしい。ここは世界が違うんじゃないかって思い始めた。
「…どうなるんでしょう」
「、あなたはきっと高値で買い取られるはずよ。心配せずとも簡単に買われることはないし食べ物もしっかり与えられるわ」
そう聞いてハッとした。そういえば荷物、と薄暗い中探してみればこの世界には似つかわしいものがきらりと光った。おそらくキャリーバッグの金具の部分がわずかな光に反射したのだろう。
静かに鍵を解きファスナーを開ける。すると変わらないものがたくさんつまっていて少し安心した。この中には数日間生きていけるだけのお菓子やパンなどがある。これを分け与えたりすればあの何人かの霞んだ声も元に戻るのではないかと思った。
「あの、私食料持ってて…いかがですか?」
「…!」
その声に何人かの息をのむ音が聞こえた。相当腹が減っているのだろう。
「でもその…異国の食べ物で口に合うかどうか…」
は取りあえず甘いものも何もついていないただのパンを家から持参していた手拭いに何枚か包んで由良たちのいるほうへ滑らせた。
するとすぐにそれにくいつく音が聞こえて、わぁっと歓声のような声があがった。
「これは…?」
「パンと呼ばれる食べ物です。日ノ本で主食とされてる米のかわりに異国ではパンを主食として食べてます」
そう説明すれば納得するような声やおいしいと嬉しそうに言う声も聞こえても嬉しくなった。
少し溶け込めたように思えた。