第21章 第31層~第40層 その3 "喧嘩花火"
「………」
ジンは言葉を発する事が出来なかった
有り得ない――ただそれだけが胸中で躍り狂う
普通なら首を中心に信じられない痛みが走る筈
それこそ、死しても何らおかしくないような痛みである
だが、このヴィルヘルムという男はそれらを全く感じていないようにしか見えない
「ちょっとはそそるようになったじゃねぇか、それで良いそれで良い……だからよ、もっと吸い甲斐のある奴になれや」
その言葉の直後、ジンはまたも吹き飛んだ
だが、何によってかは分からなかった
腕は塞がっている―ならば足か
とにかく身体は再び地の上を転がり、土の味を噛み締める
「さぁ抵抗してみろ反撃してみろ。でなけりゃテメェ、死ぬだけだ」
まだ余力を感じさせるヴィルヘルム
肩で息をし、まさに満身創痍のジンであったが、何故か感じるものがあった
ここでは死ねない――いや、"死なない"と
歪な確信
それを見抜いたのか、ヴィルヘルムの表情は変わった
「テメェ…気に入らねぇな、その目。死ぬ訳がねぇって目だ……まぁいい、少しは吸いでがあるみてぇだからよ、一息に吸い殺してやる」
直後、ヴィルヘルムに異変が起きた
彼の右手、掌から何かの塊が生えてきた
禍々しく赤黒いそれは極大の杭のようであった
有り得ない―そうジンは感じていた
有り得ない―彼の感覚は全く正しい
これは有り得ないのだ
しかし確固たる存在である
そしてそれは、今のジンを簡単に消し去る事が出来る
逃げなくては死ぬ―だが死なない
回避が通用するのかは分からない、だが逃げなくては死ぬ―否、死なない
歪な確信と生物的本能がジンの頭の中で激しく争う
そうしている内にもヴィルヘルムはジンの息の根を止める為、ジンへ近付く
「じゃあな、ヴァルハラで会おうや」