第19章 第31層~第40層 その1 "Chase"
それは突然起きた
僅かに森が深まった時である
木々のざわめきに混じって何かが聞こえてきた
現実の、何気無い場所で聞いた事があるような旋律―それは徐々に、徐々に音量を上げハッキリした音楽となる
「ねぇねぇリアナ、これってアレだよね?信号機の音だよね?」
「言われてみれば…歩行者信号機の―」
「あぁ、『通りゃんせ』か」
今や無視するのが難しくなった音量にケンタ、クリス、リアナも反応を示す
明らかにこの森のフィールドに合わない音楽に困惑が漂っていた
だが事態はこれ以上に混迷を増す
「皆、あそこに敵の群れがいる」
木々に隠れるように部長は警戒を促す
だがおかしい―私が何度その場を見ても敵の影すら見えない
辺りに響く音楽は更に音量を増しているにも関わらず部長達はそちらにまるで反応していない
「今なら全員で奇襲をかけられる。行けるな?」
「ちょ、ちょっと―」
「よし、それじゃあ…スタート!」
私達が全く混乱の中にあるのも無視して彼等は走り出してしまった
何が起きたか分からない―だが追わなくてはならない
そう感じた時―
「久し振りですね」
―割り込む声
反応を見せる前に、私の身体は右へ飛ばされていく
無理矢理身体から吐き出された酸素に噎せながら、空中で体勢を整えた先―視界に入るは金髪の少年
「貴方!?」
それが誰かを認識した瞬間、腹に彼の踵がめり込み、成す術無く落下してしまった