第6章 第1層~第10層 その5 "天才"
「っ!!」
取り落とした矢も忘れて、後退動作に切り替える
直後、目の前を通過するビーム
抉れるビル―生じた衝撃波に呆気なく飛ばされる小さな肉体
エリーはチャクラムを射出し、自身の後ろにある、予定外の少し小さなビルに跳び移る
ボスとの距離は少し遠くなり、先のビルが壁になったが、そんな事実を越える事態がエリーを苦しめていた
今のビーム、これまでの速い射撃ではない
明らかに移動先を予測してきたものだ
無様に転がりながらも頭が働く事に笑いかけ、もう一度身体を動かす
そうだ、止まっている暇は無い
何の為にこんな真似をした?―決まっている、たった一つしかない
(リリィ…)
彼女が彼女を失わぬように、自分が本気で前に出るのだ
動く理由は、それで十分
もう一度身体のギアを上げ、駆け出す
相手が予測をする以上、何処に行くか慎重に決めなくてはならないが、動かなければ始まらない
そう思い、移動先を決めた直後―ビルが歪んだ
円形に抉れるビルの外壁
超高熱でコンクリートが溶けている
つまり―真正面からビームが来ている
「ぁ…」
そうか、体勢を崩した相手に追い討ちをかけるのは当然か
それを失念していた事に気付いた時に、壁となっていたビルが抜かれ―自身に迫る
あぁ…終わった…
これまでの経験に基づく直感がそう告げ、エリー自身も回避が出来ないと理解してしまい、身体を止めてしまう
耐えられるのは一撃?二撃?
分からないが、死ぬだろう
しかし、最後に聞こえるのがコンクリートの破壊音というのも無粋だな…と感じた時―
「届けえええぇぇぇぇぇ!!!」
もっと終わりに合わない声が何処からともなく聞こえたのである