第16章 雄英文化祭編
偶然にしては、あまりにもできすぎている。
「……おい」
爆豪が口を開きかけた、そのとき。
「お兄ちゃんたちも、ありがとう!」
双子の一人が、爆豪たちへ向かって元気よく手を振った。
もう一人も、長男も、それに続く。
「助けてくれてありがとう!」
「……おう」
切島が笑顔で手を振り返す。
「もう迷子になんなよ!」
「お前ら、もう母ちゃんから離れんなよ!」
上鳴も声をかけた。
爆豪はというと、三人の顔を見つめたまま、短く返事をする。
「……良かったな」
その声を聞いた長男は、一瞬だけ、泣きそうなほど嬉しそうな顔をした。
けれど、すぐにいつもの幼い表情へと戻る。
「バイバイ!」
三人は母親のそばに集まると、人の流れに紛れるようにして歩き出した。
母親は最後にもう一度、おもちたちへ微笑みかける。
「本当にありがとうございました。皆さんも、文化祭を楽しんでくださいね」
そう言い残し、彼女もまた人混みの向こうへと消えていった。
金色の髪が、人々の間に揺れて見えなくなる。
しばらくの間、誰も口を開かなかった。
やがて、上鳴がぽつりと呟く。
「……なあ。今の人、マジで何者?」
「知らねぇよ」
爆豪は即座に答えた。
けれど、その視線はまだ、彼女たちが消えていった方向に向けられていた。
「……にしても、あのガキども」
「爆豪にそっくりだったよな!」
切島が言い切る。
「しかも三人!あんな偶然ある!?」
「うるせぇ、分かってんだよ!」
爆豪は苛立ったように声を荒らげたものの、頭から離れない光景があった。
自分へ伸ばされた、あの赤ん坊の小さな手。
自分の声を聞いたときの、あの嬉しそうな顔。
そして、最後にこちらを振り返った長男の、今にも泣き出しそうな笑顔。
まるで、ずっと会いたかった相手にようやく会えたかのような――。
「……なんだったんだ、あいつら」
爆豪は小さく呟いた。
その隣で、おもちもまた、女性と子どもたちが消えた方向を見つめていた。
あの母親の、どこか見覚えのあるような美しさ。
そして、子どもたちが爆豪へ向けていた、不思議なほど親しげな眼差し。
理由は分からない。
けれど、胸の奥に小さな引っかかりが残っていた。
まるで、ほんの一瞬だけ、未来の何かを垣間見てしまったかのように。