第16章 雄英文化祭編
「テメェら、何やってんだ」
手首を掴んでいた男子生徒が、ぎこちなく振り返る。
「いや、これは……」
「何やってんだっつってんだよ」
爆豪が、一歩前へ出た。
その瞬間、五歳の男の子が、はっと息を呑んだ。
目の前に現れた金髪の少年。
赤い瞳。鋭い目つき。険しい眉間。
その顔を見た途端、男の子の表情が変わった。
驚きと、安堵と、それから、何かを必死に堪えるような感情。
胸元の赤ん坊も、爆豪の声に反応したのか、小さな手を動かした。
「……っ!!!!」
男の子は、今にも何かを口にしそうになった。
けれど、ぎゅっと唇を結ぶ。
言ってはいけない。
そう約束したのだ。
だから、彼は黙っていた。
ただ、目の前に立つ少年を、信じられないものを見るように見つめていた。
一方、爆豪はまだ気づいていなかった。
自分と瓜二つの顔をした小さな男の子たちが、目の前にいることに。
切島が険しい表情で状況を見回し、上鳴も冗談を言う余裕を失っていた。
「……おい、そいつの手、離してくださいよ」
切島が低い声で告げる。
「嫌がってるの、見りゃ分かりますよね?」
上鳴も珍しく真剣な顔をしていた。
男子生徒たちの表情が、明らかに強張る。
そして、おもちは。
目の前に立った爆豪の背中を見つめながら、静かに息を吐いた。
――助かった。
そう思ったのは、ほんの一瞬。
すぐに、別の問題が頭をよぎった。
爆豪によく似た三人の男の子。
自分によく似た赤ん坊。
そして、その子どもたちが、目の前の爆豪を見つめる目。
まるで、ずっと会いたかった人を見つけたかのような。
そんな、あまりにも不思議な視線だった。
おもちは、腕の中の赤ん坊をそっと抱き直した。
赤ん坊は小さな手を伸ばし、爆豪の方へ向けるように動かした。
まるで、その声を知っているかのように。
文化祭の賑やかな廊下で、誰もまだ、その奇妙な偶然の意味を知らなかった。