第16章 雄英文化祭編
そして、間奏が最高潮に達したとき。
おもちの青い瞳に、まばゆい光が宿った。
来る。
自分のソロパートだ。
彼女は一瞬だけ目を閉じた。
胸の奥で、何かが弾ける。
公安の任務で、幾度となく危険な現場に立ってきた。人の表情を読み、状況を分析し、感情を押し殺して判断を下す。自分の本心を隠すことなら、誰よりも得意だった。
けれど、今は違う。
ここには、隠すべき秘密も、警戒すべき敵もいない。
ただ音楽があって、仲間がいて、目の前に大勢の観客がいる。
そして、自分の歌を待ってくれている人たちがいる。
おもちはマイクを握り直した。
そして、口を開く。
最初の一音が、会場を貫いた。
それは、これまで耳郎と歌っていたときとは、明らかに違う声だった。
腹の底から力強く響く、芯の通った歌声。
豊かな声量が一気に解き放たれ、低音から高音へ、しなやかに、そして大胆に駆け上がっていく。
声の輪郭には、確かな強さがあった。
それでいて、ただ大きいだけではない。
音のひとつひとつに感情が宿り、伸びやかな高音には胸を締めつけるような切なさが滲む。フレーズの終わりに残る余韻は、聴く者の耳に焼きつき、次の音を待たずにはいられなくさせた。
かすれ気味なのに、圧倒的なパワーと表現力。
力強く、艶やかで、自由。
それは、歌声そのものが一つの物語を語っているかのようだった。
「…………え?」
観客席の一角で、誰かが呆然と呟いた。
「今の……おもちさん?」
その声に答える者はいなかった。
皆、ステージに釘付けになっていた。
彼女の歌声は、ただ耳に届くだけではない。
胸の奥に直接響いてくる。
普段の彼女からは想像もつかないほど情熱的で、伸びやかで、聴く者の心を強く引き寄せる。
それなのに、どこか彼女らしい品のある美しさが失われていない。
歌い上げるたびに、会場の熱気が高まっていく。
「うそ……めっちゃ歌うまい……!」
「声量どうなってんの!?」
「鳥肌立った……!」
ステージの上で、おもちは歌っていた。
誰かのために声を使うのではなく、自分自身の気持ちを、ただ音に乗せて。
その瞬間、彼女の視線が観客席の一角に向いた。