第16章 雄英文化祭編
自分の悪戯が思いのほか大きな騒ぎになったことを、心から楽しんでいる。
その表情は、同じクラスの仲間として過ごしてきた時間の中でも、特に自然なものに見えた。
「……まったく」
耳郎は頬を押さえたまま、呆れたように笑う。
「ほんと、何してくれてんのよ」
「少しは緊張が解けたでしょう?」
「……まあね」
耳郎はギターを持ち直し、ステージのほうを見た。
「ありがと。おかげで、ちゃんと歌えそう」
その言葉に、おもちは嬉しそうに微笑んだ。
「それならよかった」
そして、彼女は一歩前へ出ると、列を作り始めたクラスメイトたちを見渡した。
「さて。皆さん、そろそろ本番よ。おまじないの受付は、ライブが終わってからにしましょうか」
「ええええーっ!?」
芦戸と葉隠の抗議が重なる。
「今じゃないの!?」
「ずるい!耳郎ちゃんだけ!」
「ふふ。終わったら考えておくわ」
「やったー!!」
二人が歓声を上げる。
その瞬間、舞台袖にスタッフの声が響いた。
『A組の皆さん、スタンバイお願いします!まもなく本番です!』
空気が変わった。
クラスメイトたちは、それぞれ楽器を持ち直し、持ち場へと向かっていく。
緊張は、もう消えていたわけではない。
それでも、さっきまでの張り詰めた空気とは違う。
顔を見合わせれば、自然と笑みがこぼれる。
「……よし、やるか!」
切島が拳を握る。
「絶対、成功させようね!」
麗日が笑う。
「当然だ。練習の成果を見せるだけだろう」
常闇が静かに頷いた。
「よっしゃー!最高のライブにしてやるぜ!」
上鳴がギターを掲げる。
耳郎は一度だけ、頬に手を当てた。
まだ、あの柔らかな感触が残っているような気がする。
「……ほんと、調子狂うなぁ」
小さく呟きながらも、その顔には晴れやかな笑みが浮かんでいた。
隣に立ったおもちが、彼女へ視線を向ける。
「耳郎さん」
「ん?」
「楽しもう」
その言葉に、耳郎は力強く頷いた。
「うん!」
二人は並んで、ステージへと続く暗い通路を見つめる。
やがて、照明が落ちた。
観客席から、期待に満ちた歓声が沸き上がる。
A組の文化祭ライブが、いよいよ始まろうとしていた。