第16章 雄英文化祭編
まぶたの向こうから、柔らかな秋の日差しが差し込んでいた。
腕の中に伝わる小さなぬくもりと、遠くから聞こえるクラスメイトたちの話し声。心地よいまどろみの中で、おもちはゆっくりと意識を浮上させた。
……少し、眠ってしまったらしい。
そう思いながら、長いまつ毛を震わせ、そっと目を開ける。
「……ん」
最初に視界に飛び込んできたのは、宝石のように澄んだ赤い瞳だった。
「…………」
「…………」
至近距離で、じっと自分を見つめている小さな女の子。
「……エリちゃん?」
おもちは一度瞬きをした。
どうやら、目を覚ましたエリが、すぐ目の前で自分の顔を眺めていたらしい。
その距離の近さに、思わず小さく笑みがこぼれた。
「おはよう?」
寝起きのせいか、いつもより少しだけ柔らかい声。
それを聞いたエリの顔が、ぱあっと明るくなった。
「おねぇちゃん!」
「はいはい。おはよう、エリちゃん」
おもちが優しく微笑みかけると、エリは目をきらきらと輝かせ、胸の前で小さな手を握りしめた。
「おねぇちゃん、キラキラしてて、とってもきれい!」
「……?」
思いがけない褒め言葉に、おもちはきょとんとした。
「キラキラ?」
「うん!」
エリは迷いなく頷いた。
「お人形さんみたいなの!まつげも、お肌も、おくちも、みーんなきれい!おねぇちゃん、ほんとうにお人形さんみたい!」
どうやら、眠っている自分の顔を間近で観察していたらしい。
おもちは一瞬だけ目を丸くしたあと、ふっと笑った。
「あら。そんなにじっくり見られていたの?」
「うん!」
「それは恥ずかしいところを見られちゃったわね」
そう言いながらも、彼女の表情に恥じらいはほとんどなかった。
むしろ、エリがあまりにも真剣に褒めてくれるものだから、少しばかり面白くなってしまったようだった。
「でも……そうかしら?」
ふ、と。
おもちの唇が、悪戯っぽく弧を描いた。
いつもの、あの笑みだった。
相手の反応を楽しむような、余裕たっぷりの微笑み。少しだけ首を傾げ、青い瞳を細める。その仕草ひとつで、見る者の心をするりと掴んでしまうような、どこか蠱惑的な笑顔。
エリは、ぴたりと動きを止めた。
「…………っ!」