第16章 雄英文化祭編
エリは、すぐ目の前にあるおもちの寝顔にうっとりと見入っていた。
長いまつ毛に、透き通るような肌。ほんのり桃色に染まった唇。いつもは大人びた微笑みを浮かべている彼女が、今はすっかり力を抜き、幸せそうな寝顔を見せている。
エリにとっては、初めて見るステラの素顔だった。
その頃、A組の面々も練習をひと区切り終え、休憩に入っていた。
「ふぅーっ!一回休憩!指が疲れたぁ!」
上鳴がギターを置き、肩をぐるぐると回す。
「お前、まだそんなに弾いてねぇだろ」
爆豪がドラムスティックを指先で回しながら、呆れたように吐き捨てた。
「いやいや、音楽は心で弾くもんだから!精神的な疲労がすごいわけよ!」
「じゃあ心を鍛えろ、バカ」
「ひどっ!」
いつもの調子で言い合う二人をよそに、芦戸が教室の隅へ目を向けた。
「あっ、エリちゃん起きてる!」
その声に、皆が一斉に振り返る。
「えっ、ほんと!?エリちゃーん、おはよー!」
芦戸が手を振ろうとした瞬間、エリが人差し指を唇に当てた。
「しーっ。おねえちゃん、ねんねしてるの」
「あっ、ごめんね!」
芦戸は慌てて口元を押さえた。
そして、エリの視線を追いかけるように、眠るおもちを見た。
「…………え?」
数秒、沈黙。
「……ちょっと待って」
芦戸は目を見開き、隣にいた耳郎の腕を掴んだ。
「耳郎、見た!?見たよね!?」
「見てる。見てるから、揺さぶらないで」
耳郎は冷静に返したものの、視線はすっかりおもちに釘付けだった。
いつも美しい人だとは思っていた。
けれど、普段の彼女にはどこか隙がない。大人びた物腰と、何を考えているのか簡単には読ませない微笑み。そのせいか、同じクラスメイトでありながら、時折ひどく遠い人のように感じることもあった。
なのに、今はどうだろう。
エリを抱いたまま、安心しきって眠っている。
長いまつ毛が頬に影を落とし、口元には、いつもの微笑みとは違う、ふわりと甘い笑みが浮かんでいた。
「……なに、あの顔」
耳郎が思わず呟いた。
「普段の美人オーラはそのままなのに、なんか……すごく柔らかい」
「わかる!なんか、いつもの大人っぽい感じと違うよね!」
芦戸が勢いよく頷く。