第16章 雄英文化祭編
おもちは一瞬だけ目を見開いたあと、そっとエリの背中に腕を回した。
「……うん」
耳元で、優しく答える。
「久しぶり、エリちゃん」
その声を聞いた途端、エリの身体が震えた。
「会いたかった……っ」
絞り出すような声だった。
「ずっと……会いたかったの……」
おもちは、目を伏せた。
胸に顔を埋める少女の髪を、そっと撫でる。
あの時は、守るために離れるしかなかった。
彼女を救うために、正体を隠し、別人として生きるしかなかった。
けれど、エリは忘れていなかった。
声も、表情も、触れた手の温もりも。
自分が彼女に向けた思いを、ちゃんと覚えていてくれた。
「……私も、会いたかったよ」
囁くように告げると、エリはさらに強く彼女にしがみついた。
おもちは、そんな小さな背中を優しく抱きしめ続けた。
少し離れた場所では、緑谷が息を呑んでいた。
エリが、あんなふうに誰かへ駆け寄る姿。
自分を見つけた時とは違う、切実な表情。
そして、おもちが見せた、今まで見たことのないほど優しい笑顔。
「……おもちさん」
緑谷は、以前の潜入捜査を思い返した。
死穢八斎會でエリのそばにいた、金髪の女性。
自分たちを敵だと思わせる立場にいながら、エリを救うために密かに動いていた人物。
あの時、彼女が自分に託してくれたもの。
それが今、目の前でひとつにつながった。
一方、通形は状況を飲み込めず、目をぱちぱちと瞬かせていた。
「……え?お姉ちゃんって」
エリが口にした名前を繰り返し、おもちと少女を交互に見つめる。
「ちょっと待って。知り合いなの?でも、エリちゃん、この人は……」
言いかけて、通形は口を閉じた。
エリは今、安心した表情を浮かべていた。
泣きそうな顔をしながら、それでも確かに安どしていた。
その小さな身体から、先ほどまでの緊張が少しずつ抜けていく。
ならば、今はそれでいい。
通形は、静かにふたりを見守ることにした。