第16章 雄英文化祭編
無責任に約束することはできない。彼女がどこにいるのかも、今どうしているのかもわからないのだから。
「……それは、わからない。だが、会いたいと思っていることは、覚えておいていいんじゃないか」
相澤なりの、精いっぱいの言葉だった。
壊理は小さく頷いた。
「……うん」
その横顔を見つめながら、緑谷は胸の内でそっと考えた。
――もし、壊理ちゃんが雄英の文化祭に来てくれたら。
きっと、おもちと会える。
彼女が今、どこで何をしているのかはわからない。それでも、同じ雄英にいる以上、文化祭の準備に参加している彼女と顔を合わせる可能性は十分にある。
壊理が文化祭に来ることを知れば、おもちはきっと喜ぶだろう。
あの地下室で、壊理を助けるために行動した彼女だ。
自分が守ろうとした少女が、少しずつ前を向こうとしている。
その姿を見られることが、嬉しくないはずがない。
あのときのステラは、髪の色も、顔立ちも、雰囲気さえも、普段のおもちとはまるで違っていた。
変装の技術も、立ち居振る舞いも、別人になりきるためのものだったのだろう。
壊理が、あの女性と今のおもちを同一人物だと気づくとは限らない。
それでも、会えるだけで意味があるかもしれない。
いつか壊理が、心から笑えるようになるために。
そして、おもちが、自分のしたことが誰かの心に残っていると知るために。
緑谷は、そんな未来を思い描いた。
「……わたし、文化祭、行ってみたい」
その言葉を聞いたミリオが、嬉しそうに拳を握る。
「よし!それじゃあ、文化祭までに楽しみなことをいっぱい考えておこう!」
「楽しみなこと……?」
「そう!何を見たいか、何を食べたいか、どんなことをしてみたいか!今から考えておけば、当日もっと楽しくなるだろ?」
壊理は少し考えてから、こくりと頷いた。
「……考えてみる」
その返事に、緑谷は笑った。
壊理の心に差し込んだ小さな光が、消えてしまわないように。
いつか彼女が、自分の意思で笑える日が来るように。
そして、その日を迎えた彼女が、助けてくれた人たちと再び出会えるように。
緑谷は、文化祭が待ち遠しくなった。
その胸の内に、まだ誰にも話していない小さな秘密を抱えながら。