第15章 死穢八齋會
ヒーローインターンが始まった。
クラスメイトたちは、それぞれの目標を胸に、プロヒーローのもとで実地経験を積み始めていた。寮を離れて活動する時間が増え、互いの行動を細かく気にする者もいなくなった。
それは、彼女にとって好都合だった。
昼間は雄英高校の生徒として過ごし、夜は死穢八斎會の構成員として組織の内側へ潜り込む。二つの生活を行き来する日々にも、少しずつ慣れてきていた。
知崎の警戒を解き、末端の構成員としての立場を確立する。その一方で、彼の外部との接触や、組織内で交わされる会話を拾い集め、公安へと報告する。
けれど、組織の深部に近づくほど、見えてくるものは少なくなっていった。
重要な情報ほど、限られた人間しか知らない。
彼女は焦らなかった。
信頼を得るには時間がかかる。無理に踏み込めば、これまで築いてきた立場さえ失いかねない。
そうして潜入を続けていた、ある日のことだった。
「――どこへ行った!!」
建物の奥から、知崎の怒声が響き渡った。
彼女は手元の作業を止めた。
普段の知崎は、感情を露わにすることが少ない。冷静で、他人を見下すような態度を崩さず、何事も自分の思いどおりに進めようとする男だった。
その彼が、これほど声を荒らげている。
ただ事ではない。
「研究室から逃げ出しただと? 何をやっていたんだ、あいつらは……!」
周囲の構成員たちが、緊張した面持ちで顔を見合わせる。
研究室。
逃げ出した少女。
彼女の知らない情報だった。
――壊理。
知崎がその名前を口にした瞬間、彼女は心の中で繰り返した。
壊理という少女の存在など、これまで一度も報告されていない。公安から渡された資料にも、彼女が潜入してから耳にした会話にも、その名前はなかった。
つまり、これは組織のさらに奥に隠されていた情報だ。
「ステラ」
不意に、知崎と目が合った。
彼はまっすぐ彼女のもとへ歩いてくる。
「お前も来い」
「……何をすれば?」
「探せ」
短い命令だった。
理由を尋ねる余地などない。
彼女は一瞬だけ目を伏せると、すぐに顔を上げた。
「分かりました」
余計な質問はしなかった。
今ここで知崎を問い詰めれば、不自然に思われる。彼が何を隠しているのかを知るためにも、まずは命令に従う必要があった。
彼女は知崎の後を追い、建物を出た。
