第27章 意外と淡白
ある朝。
「……行きたくない」
玄関で靴を履き終えた私は、隣に立つ脹相の服の裾をちょこんと掴んだ。
「学校だろう。遅れるぞ」
「分かってるけど……」
そう言いながら、私は脹相の胸元へ身体を寄せる。
「……ぎゅってして」
一瞬、脹相が目を丸くした。
それから、ふっと表情を緩める。
「……ああ」
大きな腕が背中へ回り、優しく抱きしめられる。
「……ふふ」
「どうした?」
「嬉しいなって」
「俺も嬉しい」
即答だった。
むしろがお願いするより前から抱きしめたかったのではないかと思うほど、脹相の腕にはしっかり力がこもっている。
「学校に行く前にこうしていられるの、いいね」
「ああ。……ずっとこうしていてもいい」
「それは遅刻しちゃうよ」
「……そうだな」
そう言いながらも、脹相は離す気配がない。
私もすっかり安心して、彼の胸に頬をつける。
温かい。
落ち着く。
大好き。
「……もう満足した」
「え?」
ぱっと顔を上げる。
「じゃあ、行ってくるね!」
「……」
脹相の腕が、ゆっくりと解かれる。
「……ああ」
私は何も気にせず、玄関のドアを開けた。
「行ってきまーす!」
「……行ってらっしゃい」
ドアが閉まる。
静かになった玄関で、脹相はしばらく動かなかった。