第26章 私の香りがする
ある日のこと。
廊下で伏黒とすれ違った脹相は、ふと足を止めた。
「……待て、伏黒」
「なんだ」
振り返った伏黒に、脹相は少し訝しげな顔を向ける。
「お前……」
「?」
「……何故、お前からあいつの香りがする」
「……は?」
伏黒の眉が寄る。
「何言ってんだ」
「いや、確かにする」
脹相は真剣だった。
「お前から、の香りがする」
「俺は知らねえよ」
伏黒はそう言ってから、ふと足元を見る。
「……」
脹相も視線を落とす。
伏黒の影が、わずかに揺れていた。
伏黒はそれを見て、淡々と声をかける。
「……出てこい」
すると影がゆっくり波打ち、白と黒の毛並みが姿を現した。
「……渾」
玉犬の渾が、伏黒の足元へ寄ってくる。
伏黒は何気なく、その頭を撫でた。
その瞬間。
「……!」
脹相が目を見開く。
やはり、する。
の香りだ。
しかも、かなり濃い。
「……」
伏黒も渾を見て、少しだけ眉を動かした。
「……ああ」
「何だ?」
「さっきまで、あいつと遊んでたからか」
「……さっき?」
「ああ」
伏黒は渾の毛並みを見ながら続ける。
「俺のところに戻ってくる前、ずっとあいつに構ってもらってたと思う」
脹相は黙って渾を見る。
そして、さっき彼女が話していたことを思い出す。
『さっき渾と遊んできた』
『すごく可愛かったよ』
その時は、それほど気にしていなかった。
だが。
「……」
渾の毛に残った彼女の香り。
そこで、脹相は想像する。
が渾の首元に腕を回してぎゅっと抱きしめて、
「渾、かわいい〜」
なんて言いながら、何度も撫でていたのだろう。