第15章 脹相って紳士だよね
「えっ……」
驚いて見下ろす。
脹相の大きな手が、私の手をそっと押さえていた。
強引ではない。
けれど、離れることを許さないくらいにはしっかりと。
「脹相……?」
顔を上げる。
目が合った。
いつもの穏やかな瞳ではなかった。
まっすぐにこちらを見つめる、その視線に息が止まりそうになる。
「……俺だって」
低く、静かな声。
脹相はほんの少しだけ眉を寄せた。
「お前が俺を求める姿を、見たくないわけではない」
「……っ」
胸が、大きく跳ねる。
何を言われたのか理解するまでに数秒かかった。
「ちょ、脹相……」
名前を呼ぶと、彼の指がほんの少しだけ動いた。
まるで自分自身を抑えるように。
それなのに、視線だけは逸らさない。
熱を孕んだ瞳が、私をじっと見つめている。
いつもなら私の気持ちを最優先してくれる人。
何かする前には必ず確認してくれる人。
そんな脹相が、今だけは何も言わずに私を見つめている。
そのことが、どうしようもなく心臓を騒がせた。
「……そんな顔をするな」
「ど、どんな顔?」
「知らん」
ぶっきらぼうに答えてから、脹相はようやく手を離した。
そして――
「……今日はもう寝ろ」
「え?」
「俺も寝る」
そう言って立ち上がる。
けれど、数歩進んだところでぴたりと止まった。
こちらを振り返る。
ほんの一瞬だけ、目が合う。
その瞳にはまだ、さっきと同じ熱が残っていた。
「……お前が思っているほど、俺は余裕があるわけではない」
「…………」
言い残すと、今度こそ脹相はふいっと視線を逸らし、そのまま部屋を出ていった。
残された私は、しばらく動けなかった。
「……ずるい……」
顔が熱い。
胸元に手を当てると、心臓がまだ激しく鳴っている。
――紳士だと思っていた。
いや、今もそう思っている。
ただ。
紳士だからこそ、決して踏み込まないと思っていたその人が、
実はずっと、私を女として見ていたのだと知ってしまった。
その事実が、たまらなく嬉しくて。
そして、少しだけ怖いくらいに――
ドキドキした。