第8章 したいと思ったから
「ふふっ。そうだよ」
「……そうなのか」
「うん。頬にするのもキスだよ」
「……なるほど」
脹相は納得したように頷く。
けれど、しばらくするとまた考え込む。
「……では」
「?」
「額でも?」
「うん」
「手でも?」
「うん」
「…………」
脹相の目が、少しだけ真剣になる。
「……どこまでがキスなんだ?」
「そんなに気になるの?」
「気になる」
即答だった。
「昨日まで、キスというのは唇にするものだと思っていたから……」
少し恥ずかしそうに言葉を続ける。
「……お前が頬にしてくれたから、他にもあるのかと思った」
「あるよ」
「……そうか」
その瞬間。
脹相の表情がほんの少し変わった。
好奇心。
そして――
ほんの少しの期待。
「……そういうものも、していいのか?」
「もちろん」
「……そうか」
脹相は頷く。
それから、自分の頬をもう一度指先で触れた。
「……これは、嬉しかった」
「ほんと?」
「ああ」
少し照れながら、私を見る。
「……唇とは違う感じがした」
「どんな感じ?」
「…………」
脹相が考える。
「……不意打ちだったから、驚いた」
「うん」
「だが……」
少しだけ目を細める。
「……お前からしてくれたのが、嬉しかった」
その言葉に、胸がじんわり温かくなる。
「じゃあ、これからもいっぱいするね」
「…………」
脹相が少しだけ目を見開く。
「……いっぱい?」
「うん」
「……そうか」
そう言って。
脹相はまた嬉しそうに頬を緩めた。
「……楽しみだ」
脹相が、ほんの少し嬉しそうに笑う。
その表情を見ていると、胸の奥まで温かくなった。
私は脹相の服をそっと掴んだまま、見上げる。