第76章 卒業〜告白〜
卒業式まで、あと少し。
最近は、学校にいる時間さえも少し特別に感じるようになっていた。
いつもの生活がもうすぐ終わる。
そんなことを考えながら、放課後の教室で帰り支度をしていた。
今日は、脹相が学校まで迎えに来てくれることになっているからと、鞄を肩にかけ、教室を出る。
廊下を歩いていると。
「先輩」
後ろから声をかけられて振り返ると
そこにいたのは、後輩の男の子だった。
「どうしたの?」
「あの……少しだけ、いいですか?」
「うん」
どこか緊張した様子だった。
「ここじゃちょっと……」
「分かった」
人の少ない場所まで移動すると後輩は何度か深呼吸をした。
「先輩」
「うん」
「卒業する前に、どうしても言っておきたくて」
「……?」
その顔を見て、なんとなく察した。
けれど、何も言わずに待つ。
「俺、先輩のことが好きです」
やっぱり。
一瞬、言葉に詰まった。
嫌なわけではない。
ありがたいことであって、
むしろ、そう思ってくれたことは嬉しい。
でも、私には、もう大切な人がいる。
「……ありがとう」
まず、それだけを伝えると後輩が少し顔を上げた。
「でも、ごめんね」
「……はい」
「私には、大事な人がいるから」
その言葉を口にしたとき、不思議なくらい迷いはなかった。
脳裏に浮かんだのは、脹相の顔。
家で私を待っている人。
帰れば「おかえり」と言ってくれる人。
その人を思い浮かべるだけで、答えは決まっていた。
「そうですよね」
後輩は寂しそうに笑った。
「やっぱり、彼氏さんがいるんですよね」
「うん」
「卒業する前に……どうしても言いたかったんです」
「ありがとう」
私はもう一度、お礼を言う。
「そう言ってくれて嬉しかったよ」
「……はい」
少しだけ沈黙が流れると、やがて後輩が笑った。
「これで、ちゃんと先輩から卒業できます」
「大げさだよ」
「俺にとっては大げさじゃないです」
そう言って、後輩は頭を下げた。
「先輩、あと数日ありますけど、卒業おめでとうございます。」
「ありがとう」
そう言って、後輩は去っていった。
私はその背中を見送る。
少しだけ胸が苦しかった。
でも、後悔はなかった。
私はちゃんと、自分の大切な人を選べた。
そう思った。