第46章 小脇に抱えて
「……脹相」
「何だ」
「一応言っとく」
「?」
「先輩は抱き止めたんじゃねぇぞ」
「……?」
脹相がこちらを見る。
恵は淡々と続ける。
「小脇に抱えてた」
「…………」
沈黙。
脹相の顔が止まる。
「……小脇に?」
「そう」
「……」
「完全に」
「…………」
恵はその顔を見て、初めて少しだけ笑いそうになった。
「足、浮いてたし」
「……」
脹相はしばらく黙っていた。
やがて。
「……そうか」
「そうだ」
「……ならいい」
「何がだよ」
恵には分からなかった。
たぶん、脹相にもよく分かっていない。
ただ。
さっきまでの険しい顔が、ほんの少しだけ緩んでいる。
そこへ荷物を取りに行っていた彼女も戻ってきた。
「二人とも何話してるの?」
「何でもねぇ」
恵が即答する。
「そう?」
「ああ」
脹相も頷く。
「……何でもない」
恵は思う。
――こいつ、絶対まだちょっと気にしてるだろ。
彼女は何も知らず、脹相の腕に自然に寄り添う。
「帰ろう?」
「ああ」
脹相は満足そうに彼女を見た。
恵は二人の後ろを歩きながら、ひとりで思う。
――乙骨は妹同然に可愛がっている同僚を助けただけ。
――本人も彼女も何も気にしてない。
――俺から見ても、どう考えても小脇に抱えただけ。
なのに。
――脹相だけ、最後まで「抱き止められた」と思ってやがる。
「……ほんと、なんなんだよ」
恵は呆れたように呟いた。
前を歩く二人には聞こえない。
ただ、その口元はほんの少しだけ緩んでいた。