第45章 物置で
「どうしたの?」
「……いや」
「さっきから手、握ったり開いたりしてるけど」
「問題ない」
即答だった。
「本当に?」
「ああ」
脹相は顔を逸らす。
しかし、私がじっと見ている。
「もしかして……」
「?」
「手首、痛めたの⁈」
「…………」
脹相の眉がわずかに動く。
「違う」
「でもずっと手を――」
「問題ない」
「じゃあ、何で?」
「…………」
答えられない。
まさか、
『さっきお前を抱き上げた時に、手に柔らかな感触が残って、それが何だったのか気になって仕方がない』
などと言えるはずもない。
「……少し、手を動かしていただけだ」
「手を動かす?」
「ああ」
「何のために?」
「…………」
脹相は黙った。
私が首を傾げる。
「脹相?」
「……それより」
「うん?」
「さっきの棚の物は、どこに置くんだ」
「え?」
「俺がやる」
「いや、自分で――」
「駄目だ」
即答。
「また危ないことをされると困る」
「そんなに心配しなくても……」
「心配する」
真っ直ぐな目で言われて、私は少しだけ照れてしまう。
「……じゃあ、お願い」
「ああ」
脹相はそう言って物を受け取る。
そして私から離れようとした、その時。
「ねえ」
「何だ」
「本当に手首、大丈夫?」
「…………」
「痛かったら言ってね」
「……ああ」
脹相は短く答えた。
けれど私が背を向けた瞬間
また、自分の手を見た。
握る。
開く。
(……あれはきっと)
そしてまた、あの感触を思い出す。
考えるな。
考えるほど、気にしてしまう。
気にするほど、鮮明になる。
「…………」
脹相は静かに目を閉じた。
(……次に抱き上げる時は、もっと気をつけよう)
そう決意した直後。
(……いや、何を考えている)
自分で自分に呆れながら、脹相はそっと手を握った。