第31章 欲求不満なのか
「脹相、早くー!」
「今行く」
外へ出ると朝の空気は涼しい。
彼女が準備運動をしながら笑う。
「最初はゆっくりね」
「ああ」
「無理しちゃ駄目だよ」
「お前こそな」
「私は大丈夫!」
そう言って走り出す。
「行こ!」
「ああ」
並んで走る。
しばらくして、
「こうやって一緒に走るの、なんか楽しいね」
「……そうだな」
「最近ずっと忙しかったし」
「…………」
脹相は横目で彼女を見る。
束ねた髪が揺れ、楽しそうに走っている。
「ね?」
「ああ」
「ちょっとスッキリしてきた?」
「…………」
「脹相?」
「……まあ」
確かに少しだけ頭が軽くなった気がする。
だが隣で笑う彼女を見て、別の意味で胸が騒がしくなる。
「……どうしたの?」
「何でもない」
「顔赤いよ?」
「走っているからだ」
「そう?」
「ああ」
彼女は納得したように頷く。
「じゃあ、もう一周行こ!」
「…………」
「今度は少し速く!」
「分かった」
二人でまた走り出す。
脹相は思う。
――確かに、発散にはなっているかもしれない。
しかし
――これはこれで別の意味で眠れなくなるのではないか。
そんなことを考えながら彼女の隣を走る。
「脹相、遅いよ!」
「……お前が速いんだ」
「ふふっ」
彼女の笑い声が聞こえる。
脹相は小さく息を吐いた。
「……まあ」
悪くない。
夢のことを考え続けるより。
こうして現実の彼女と一緒にいる方がずっといい。
そう思った。
――ただしその夜。
「…………」
ベッドに入った脹相は少しだけ嫌な予感がしていた。
「…………」
今日、一緒に走った彼女の姿が鮮明に思い浮かぶ。
「……まさか」
そしてその予感は見事に的中することになる。