第31章 欲求不満なのか
その日の朝、彼女が目を覚ました。
「……ん」
「おはよう」
「おはよ……」
眠そうに目を擦る彼女。
脹相はいつも通りに挨拶する。
「よく眠れたか?」
「うん」
「そうか」
「脹相は?」
「…………」
一瞬、言葉に詰まる。
「……あまり」
「え、大丈夫?」
「問題ない」
「でも最近、ちょっと眠そうじゃない?」
「…………」
脹相は答えない。
まさか「毎晩、お前の夢を見ているせいだ」
などと言えるわけがない。
しかも「毎晩、俺の上にいるお前の夢を見ている」
なんて絶対に言えない。
「……大丈夫だ」
「ならいいけど」
彼女が笑う。
その笑顔を見て。
脹相はまた夢を思い出す。
「…………」
やはり
「……欲求不満なのかもしれない」
「ん?」
「いや」
「?」
「何でもない」
その夜。
脹相は寝る前に、少しだけ身構えていた。
「…………」
夢を見るのだろうか。
また。
彼女が自分の上に――
「…………」
考えるのをやめる。
そして眠る。
翌朝。
「…………」
脹相は目を覚ました。
隣を見る。
彼女がいる。
「…………」
そして。
夢の内容を思い出す。
「…………」
しばらく沈黙。
「……またか」
四日目どころか五日目だった。
脹相はついに天井を見上げる。
「……これは、本当に欲求不満なのか?」
真剣だった。ものすごく真剣だった。
だが隣で彼女が寝返りを打つ。
「……ん」
そして無意識に脹相の腕へ抱きついた。
「…………」
脹相が固まる。
「…………」
しばらくして
「……いや」
小さく呟く。
「これは仕方がないだろう」
何が仕方ないのか、本人にもよく分からない。
ただ。
彼女を抱き返した瞬間、昨夜の夢がまた鮮明に蘇ってしまって。
脹相は目を閉じた。
今日こそ、夢を見ませんように。
そう願いながら、一方で、もしまた見たら…
などと考えてしまう自分に気づいて余計に悩むのだった。