第77章 夢だったら
「なら」
そのまま、ぎゅっと握る。
「こうしておこう」
「……手?」
「ああ」
「なんで?」
「朝になっても、俺がお前の手を握っていれば」
脹相は私を見る。
「夢ではないと分かるだろう」
「……」
「もし目が覚めて不安なら」
少しだけ間を置いて。
「俺に聞けばいい」
「何て?」
「『まだ恋人か』と」
思わず笑った。
「そんなの、毎朝聞いたら?」
「毎朝でも答える」
「……面倒じゃない?」
「面倒ではない」
「何回聞いても?」
「ああ」
「……じゃあ」
私は脹相の手を握り返す。
「明日、聞くね」
「分かった」
「『まだ恋人?』って」
「ああ」
「そのときも、ちゃんと答えてね」
「約束する」
それでも、まだ少しだけ不安だった。
だから私は脹相の袖を掴む。
「……今日だけ」
「なんだ?」
「今日だけ、もう少し近くにいて」
脹相は一瞬だけ目を伏せる。
そして。
「今日だけと言わなくていい」
「……え?」
「これからも、そうしていい」
そう言って、私の頭を自分の肩へそっと寄せた。
「お前が安心するまで、ここにいる」
「……うん」
私は目を閉じる。
脹相の体温が伝わってくる。
規則正しい呼吸と繋いだままの手。
「……脹相」
「なんだ?」
「好き」
「ああ」
「……恋人?」
「ああ」
「……よかった」
それを最後にようやく身体から力が抜けていく。
眠気がゆっくりと押し寄せる。
「脹相……」
「なんだ?」
「朝になっても……」
「ああ」
「ここにいてね……」
「いる」
その返事を聞いて私は安心して目を閉じた。
脹相は、眠りについた私の手を握ったまま、しばらく動かなかった。
そして小さく。
「……朝になっても、俺はお前の恋人だ」
誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。