第74章 五条のイチオシの人と
学校が終わると、そのまま五条のところへ向かった。
「五条さん」
書類に目を通していた五条が顔を上げる。
「ん?どうしたの?」
「……お見合いって、ない?」
「……は?」
五条の手が止まった。
「お見合い?」
「うん」
「誰の?」
「私の」
「……」
五条はしばらく私の顔を見る。
「どうして?」
「……諦めなきゃいけないから」
「何を?」
「好きな人」
五条の目が少し細くなる。
「……脹相?」
私は答えなかった。
けれど、その沈黙だけで十分だった。
「そっか」
五条は椅子に深く座り直した。
「で、お見合いしてどうするの?」
「その人を好きになる」
「そんな簡単に?」
「……無理かもしれない」
私は俯いた。
「でも、諦められるくらい誠実で、頼りになって……」
顔を上げる。
「五条さんのイチオシの人に会いたい」
「……僕の?」
「うん」
「本当に?」
「お願い」
私は両手を合わせる。
「五条さんなら、変な人に会わせないから」
「……」
五条は困ったように笑った。
「君、僕のこと信頼しすぎじゃない?」
「だって五条さんは私の保護者でしょ」
「そうだけどさぁ……」
五条は頭を掻く。
「どんな人か、先に聞かなくていいの?」
「いい」
「顔も?」
「見なくていい」
「年齢も?」
「いい」
「仕事も?」
「聞かない」
「……本当に?」
「五条さんなら、変な人に会わせないから」
五条はしばらく私を見つめ、そして、小さく息を吐く。
「……分かった」
「本当?」
「うん」
「ありがとう」
「ただし」
五条は指を立てた。
「当日は、とびきりの支度をしていきな」
「……分かった」
「せっかくのお見合いなんだからね」
「うん」
「ちゃんと寝て、顔色も良くして――」
「……」
私が黙る。
五条の眉が動く。
「……寝てる?」
「……あんまり」
「何日くらい?」
「……分からない」
「おいおい」
五条はため息をついた。
「ちゃんと寝なよ?」
「努力する」
「努力じゃなくて寝るの」
私は笑った。けれど。
その夜も、ほとんど眠れなかった。