第71章 誕生日パーティー
「……」
脹相はしばらく何も言わなかった。
やがて、大きく息を吐く。
「……お前は」
呆れたような、困ったような、それでも嬉しさを隠せない声。
「肝心なところで寝るのか……」
返事はない。
脹相は私の寝顔を見つめそして、ふっと表情を緩めた。
「……まあ、いい」
今度は小さな声で。
「もう一度、言ってやる」
眠っている私の髪を、そっと撫でる。
「俺はもう、お前が好きだ」
「ずっと前からだ」
「お前が何かをしてくれたからでもない」
「優しくされたからでもない」
「一緒にいる時間が増えたからでもない」
一つ一つ、確かめるように言葉にする。
「……ただ、お前だからだ」
眠っている私の頬にかかった髪を払う。
「だから、お前が何をすれば俺が好きになるかなんて……考えなくていい」
返事はない。ただ、安心しきった顔で眠っている。
脹相は小さく笑った。
「……聞いていないな」
それでも、不思議と嫌ではなかった。
むしろ今は、これでいいと思えた。
今まで自分は、どうすれば好意が伝わるのかばかり考えていた。
もっと分かりやすく、もっと誠意を見せて、もっと行動で示して。
それでも伝わらなければ、最後に言葉で伝えよう。
そう決めていた。
けれど彼女もまた同じだったのかもしれない。
自分が好かれているとは思わないまま。
それでも、別の何かで好きだと伝えようとしていた。
二人とも同じところで立ち止まっていた。
「……馬鹿だな」
脹相は苦笑する。
今度は、眠っている私にも届くように。
はっきりと。
「だから……安心して眠れ」
私は何も答えない。
ただ、しばらくすると。
「……ん」
小さく身じろぎして。
脹相の服を、きゅっと握った。
その仕草に、脹相は目を細める。
「……明日、覚えていなくてもいい」
少しだけ寂しそうに笑う。
「そのときは、また伝える」
「俺がお前を好きだということを」
そして。
「……いつか、お前が起きているときに言う」
それが、脹相の決めたことだった。