第71章 誕生日パーティー
「……ん?」
「どうした?」
私は何かを確かめるように、脹相の首元へ顔を寄せる。
そして、すん、と小さく息を吸った。
「……脹相の匂いする」
「……当たり前だ」
「ふふ」
また、すん、と嗅ぐ。
「おい」
「いい匂い」
「……そうか?」
「うん」
もう一度。
今度はさっきより近く。
首元に顔を埋めるようにして、深く息を吸う。
「……落ち着く」
脹相の足が、ほんの少しだけ止まりかけた。
「……お前」
「んー?」
「近い」
「だめ?」
「……いや」
脹相は前を向き直る。
「構わない」
私は満足そうにして、さらに身体を預けた。
頬が脹相の首筋に触れ、その拍子に、顔を動かした私の唇が、一瞬脹相の首元に触れた。
「……」
脹相が完全に固まる。
「どうしたの?」
「……いや」
「脹相、顔赤い?」
「気のせいだ」
「ふーん」
私は気にする様子もなく、また首元に顔を埋める。
「……やっぱり脹相の匂い好き」
「……そうか」
声が少し低くなった。
「ずっとこうしてたい」
「……」
脹相は答えなかった。
ただ、私が落ちないように支える腕に、少しだけ力を込める。
しばらくして、私は安心したように目を閉じた。
「脹相」
「なんだ?」
「離さないでね」
「ああ」
「絶対?」
「絶対だ」
「……よかった」
脹相は歩きながら、何度も小さく息を吐いた。
今日の私は、いつもよりずっと素直だ。
距離も近いし、言葉も甘い。
だからこそ、脹相は浮かれないようにしていた。
今の言葉も、今の仕草も
明日の〇〇が覚えているかどうかさえ分からない。
それでも背中に感じる重みと、首元に触れる温かな息だけは、妙にはっきりと分かる。
「……五条」
脹相は小さく呟いた。
「これは確かに、見張っていろと言うわけだ」
けれど、その声には少しだけ笑いが混じっている。
「……明日も、そばにいる」
誰に聞かせるでもなく、小さく呟いた。
その声は、背中で眠り始めた私には届かなかった。