第12章 赤兎編
「ルドガー、だめっ! 私大丈夫だから、ただ後ろから抱きつかれただけっ!」
「……だけ、だと……? 赤髪、貴様だけは、生かしておけん……ッ」
戦闘態勢に入ってしまったルドガーを止められる者はいない。
ただ一人ナザルだけは、余裕の笑みで腕を組み、にやついている。
「はははは、お前さっきまでの澄まし顔と全然違えじゃねえか。もっとオスとしての余裕もてよ、そんなんじゃカノジョに嫌われちまうぞ?」
挑発する獣と憤怒する獣を見たあなたは、とっさに口元を素早く動かす。
それはさっきセロがナザルにかけていた呪文である。
またもや練習なしで効くと思わなかったが、ナザルは一瞬顔をしかめた。
「……あぁ? おいセロ、お前今なんかしたか」
「してねえよ。俺関係ねえし。もう帰っていいか? 巻き込まれたくねえんだよ」
「いや待てよ。……いてっ。……なんか蚊にさされたような……かゆいんだけどな!」
段々不快感をあらわにしたナザルは、黒い首輪を外そうとかきむしる。
あなたはルドガーの後ろで、うっすらと笑っていた。
すると前の大きな背が振り向いた。
「……? お前、何かしたか?」
「……へへ、そうだよ。わかった? 師匠がセロさんに教えた拘束魔法、今やってみたの。でも蚊みたいだって。はは、まだまだ私には無理かぁ」
照れて髪を触っていると、ルドガーがこちらを見つめる瞳が揺れる。
もうすっかり闘争心は消えうせ、彼はあなたのことで頭がいっぱいになってしまった。
そしてルドガーは二人組に背を向けて、あなたの体を抱き上げる。
「わぁっ、どうしたの? もういいの?」
「ああ、もういい。帰るぞ、」
「……うんっ」
よかった。彼の怒りもおさまり、自分のもとに帰ってきてくれた。
そう安心して素直に掴まっていると。
ルドガーは魔術師と獣に対して、振り向きざまにこう言った。
「お前らは害悪だ。に悪い影響を与えている」
そうきっぱりと告げ、まったく無反省で意味がわかっていない二人組だけが「はあ?」と返し、その場に取り残されたのだった。