第40章 【第三十五話】インクの檻
Side:ラビ
長い螺旋階段を抜けた先。
最上階へ続く巨大な扉の前で、全員の足が止まった。
誰も、すぐには手をかけない。
空気が重いわけじゃない。
敵の気配が濃いわけでもない。
ただ――本能が理解していた。
この先で、何かが決定的に変わる。
ラビは無意識に、鉄槌を握り締める。
指先が白くなるほど力が入っていた。
脳裏に浮かぶのは、さっきの白銀の光。
閉じた空間。
届かなかった声。
“絶対戻ってこいよ”。
あの時の自分の言葉。
(……ティファ)
胸の奥が、嫌な音を立てる。
今すぐ引き返したい。
壊してでも、あの場所へ戻りたい。
けれど。
ここで止まれば、ティファが命を賭けて残った意味がなくなる。
ラビは奥歯を噛み締めた。
振り払うみたいに顔を上げる。
その時。
「……行きます」
アレンが一歩前へ出た。
迷いのない声。
そのまま扉へ手をかけ、重い扉を押し開く。
次の瞬間。
影が飛び込んできた。
「アレン!」
細い腕が首へ絡みつく。
勢いのまま引き寄せられ、唇が重なった。
「……っ!?」
アレンが目を見開く。
抱きついてきた少女は、くすくす笑いながら顔を離した。
「久しぶりだねぇ」
ロード。
その存在が、空間を歪める。