第39章 【第三十四話】約束を守るために
ふいに、戦場の音が遠ざかった。
崩れる方舟の軋みも、霧の流れる音も、自分の荒い呼吸さえも、一度すべてが静かになる。
残ったのは、喉の奥で脈打つニルヴァーナの熱と、耳の奥に残るラビの声だけだった。
――約束、破んなよ。
ティファは、ゆっくりと息を吸った。
血の味を帯びた喉から、掠れた旋律が零れる。
歌と呼ぶには、あまりにも短い一節。
けれどそこには――戻りたいという、ティファ自身の願いがあった。
喉の奥で、ニルヴァーナが強く脈打った。
どくん。
焼けるような熱が、全身へ広がる。
ヴェインの足が止まった。
「……なるほど」
初めて、その声に警戒の色が混じる。
「君は、その願いまで歌に乗せるつもりか」
ティファは、震える指を握り締めた。
散りかけていた白銀の粒子が、再びその掌へ集まる。
腕が痛い。
足が動かない。
呼吸をするだけで、喉が焼ける。
それでも。
光は、彼女の願いに応えようとしていた。
「……私は」
掠れた声が、霧へ落ちた。
「誰かのために、自分を失うつもりはない」
ヴェインは、静かにこちらを見ている。
「でも……誰かを大切に思う気持ちまで、手放すつもりもない」
喉の奥の熱が、さらに強く膨れ上がった。
双剣の刃が、白銀の光へ包まれていく。