第3章 暫しの別離
差し出された小さな箱に目を瞬かせる。
「八条さんからです」
「八条くん……?」
「私に気を遣ったのでしょう」
“あれほど、自分で渡した方がいいと念を押したんですが…”そういいながら彼女の小さな手のひらに小さな小包を乗せる。
「中身は――」
「時計?」
はっとする彼女に、七海は小さく笑う。
「正解です」
箱を開く。
中には細くイエローゴールドに輝く上品な時計。
すると七海はどこか懐かしそうな表情を浮かべた。
「約束したから、と言っていましたよ」
七海は時計を取り出す。
「失礼します」
そう前置きして、森川の左手をそっと取った。
長い指が優しく手首を支える。
カチリ。
静かな音を立てて留め具が閉じられた。
七海は時計の位置を整えるように指先を滑らせる。
「よくお似合いです」
その声は驚くほど柔らかかった。
彼女は静かに腕時計へ視線を落とす。
胸の奥がじんわりと温かくなる。
すると七海は、その様子を見つめながら小さく息を吐いた。
「それから」
そう言って再びポケットへ手を入れる。
「こちらは私からです」
「え……?」
戸惑いながら蓋を開く。
中には華奢なネックレスが収められていた。
細いチェーンの先で、小さな輝きが灯りを反射している。
そして、その色味は腕時計の金具とよく似ていた。
まるで最初から揃いだったかのように。
「七海くん……」
言葉を失う彼女に、七海は穏やかに微笑む。
「付けても?」
七海は箱からネックレスを取り出す。
そして自然な仕草でネックレスを後ろに回す。
「少し失礼します」
低い声がすぐ耳元で聞こえる。
心臓が跳ねた。
髪をそっと避けられる。
首筋に触れた指先は驚くほど優しくて。
思わず肩が震える。
七海はそんな彼女を気遣うように動きを緩めた。
「できました」
ゆっくりと手が離れる。
「…こういうことは得意ではないのですが。
あなたが向こうで寂しくならないようにと思いまして」
優しい微笑みだった。
「行ってらっしゃい。」
しばしの別れ。
12月1日。
天気:快晴。
東京都 羽田空港
14:25発
East Horizon Airways
EH271便
シンガポール行き
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約束の日まで 1年。